2019年1月24日木曜日

Smoke On The Water

Deep Purple [ R.Blackmore/I.Gillan/R.Glover/J.Lord/I.Paice ]

Deep Purple最大のヒット曲にして、HR/HM界で最も有名で、ロック界全体でも有数な曲。
これだけ有名な理由は何と言ってもリフだ。一度聴いたら忘れない、必殺のリフ。早くもなく、複雑でもなく、もともと曲もミドル・テンポだし、超シンプルなリフだ。
最初はギターのみ、そしてハイハット、スネア、ベースとだんだん入って来るアレンジも良い。その中でもドラムが16分で入って来るのが最高。

このシンプルなリフ、作ったリッチーは何となく作っただけかもしれないが、意外に色々な要素が含まれている。
音の種類としてはたった4種類の音しか出て来ない。すべて2音の和音で4度のハーモニーだ。4度というか、シンプルな5度ハーモニーの上の音をオクターヴ下げたものだ。最初の音は「レソ」でコード「Gm」に対し「ソ」はルートで、「レ」は5度。3度がないので、この音だけではメジャーかマイナーか判別出来ない。最もシンプルで単音ではないパワーがあり、ダークな感じも漂わせる音だ。
最初の3音「レソ」「ファシ♭」「ソド」は普通に4分で頭のリズムで入れるのに、繰り返しの2回目は裏で入れるカッコ良さ。そして4番目の音である「ソ#ド#」の不安定さから来るスリル。「ド#」は「Gm」でのブルーノートになる。
3回目の繰り返しはまたシンプルに頭打ちのリズムだが、3音目の「ソド」の時に全体のコードが「C」になり、これに合わせるカッコ良さ。

このリフをリッチーはアップ・ピッキングで弾いているという(高崎晃の証言)。普通アップ・ピッキングはオルタネイト・ピッキングにおいて裏のリズムの時に使う場合がほとんどだが、スピードも早くないこの曲でなぜアップ・ピッキングなのだろう? と考えれば、アップなので、当然先に高い方の音の弦にピックが当たるので、高い音が大きくなるはず。4度のハーモニーではなく、5度のハーモニーでオクターヴ下を使うという所以だ。
また、ライブでは更にドラマチックなイントロにするため(だと思う)、全体を4度下げて、即ちキーを「Dm」にして「ラレ」の音からリフを弾き始め、2回目から通常のキーに戻すというアレンジを採用していた時期もあった。

このリフや曲があまりにも簡単で覚えやすいので、バンドを始めたばかりのアマチュア・バンドが初期に採用する定番中の定番になっている。そのため「素人でも弾ける簡単なクズ曲」みたいな扱いを受けることも結構ある。つまりこの曲を練習している間は初心者、これを楽々こなすバンドは脱初級。そしてそれ以上のバンドはこの曲は相手にしない、逆に演奏しているとちょっと恥ずかしい、というような感じだ。まあ、そういう部分も理解出来るが、簡単なこととこの曲が「クズ」であることとは根本的に違う。誰にでも覚えられるような簡単でキャッチーなリフを作り出すなんて、普通まず無理だし、ここまでシンプルなのに力強さを感じさせる曲というのもそうそうない。どんなに複雑でハイ・レベルの曲を作っても、この曲の以上に万人に覚えてもらうのは不可能だろう。何しろ一時期は「国歌の次に有名な曲」と言われていたほどだ。

ヴォーカルが入った後を順に追っていくと、コード進行は「Gm」「Gm」「Gm/F」「Gm」の繰り返し。3小節目の「Gm」を「B♭」にした方が分かりやすくなるように思うが、ギターもベースもオルガンも完全に「Gm」だ。
要所要所にリフが出て来るのもハードロック曲のお手本のよう。
サビは「C」「A♭」「Gm」「Gm」の繰り返し。「A♭」が印象的だ。そしてその後の部分で、ボーカルはオクターヴのハモり、楽器もベースを中心に合わせている感じだ。キッチリと合わせた方がカッコいいように思う。

ギターソロ。これも有名なソロだ。なかなかキチッと構成されている完成されたソロなので、完コピしても損はないと思うが、実は私は完コピしたことはない。リッチーの雰囲気は残しつつ自由な発想で弾きたいからだ。だいたい出だしと最後だけリッチーのフレーズを拝借している感じ。
リッチーのソロでは、リッチーにしては比較的大人しめのソロでキチッとしている展開が続くが、「C」になるところで一気に盛り上げて開放感や爽快感があるのが凄いと思う。ここで5度(レ)の音を使うためにその前を結構長く狭い音域の中でソロをとっていたんだなと思う。
そして最後にリフをバックに弾くようになるが、そこでのチョーキングから少しずつダウンしていくところがミソだなと思う。

さて、この曲、当時に本当にあった火事のエピソードをそのまま歌詞にしていることはロック界では結構有名。歌詞にある通りスイスのレマン湖のほとりのモントルーで、フランク・ザッパのマザーズのライブの最中に観客の放った花火(信号弾のような)が引火し火事になる。その煙が湖の上に漂ったという話しだ。「water」は「レマン湖」の湖面ということになる。日本語直訳アーティスト(?)の王様の訳『湖上の煙』は正しい訳だ。

逆に言えば、歌詞は結構適当に作ったともいえる。ここまで散々称えて来て言うのも何だが、このシンプルすぎるリフもリッチーがあまりリキを入れず適当に作ったということでもある。この曲を作った当時、この曲は数が足りないから作った捨て曲で、アルバムでも後半の盛り上がり(「Lazy」と「Space Trakin'」)前の目立たない位置に配置した。もちろんライブで演奏もされなかったのだが、リリース後に高い評価を受けた後、メンバーも気に入り、今や代表曲となったというオチがある。

2019年1月9日水曜日

The Show Must Go On

Queen [ Brian May / John Deacon / Roger Taylor ]

Queenの実質的ラスト・アルバムのラストを飾る曲。初めて聴いた時はそれほどピンと来ず、Bon Joviの「Runaway」をスローにしたようなよくあるリフだなと思ったくらいだったが、その頃からフレディのボーカルは凄いと思っていた。
Queenの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディー』では一番最後のエンド・ロールの時にかかる曲。その前が「Don't Stop Me Now」で実際のフレディの姿が映った後にこの曲。個人的に一番泣けたのは映像がないこの部分だった。

リリースから1年も経たない間にフレディ・マーキュリーが亡くなってしまい、重々しい決意表明のような曲は涙なくしては聴けない曲になってしまった。「ショーを続けよう(続けなくてはいけない)」という感じだ。
この曲でのフレディは、正に全身全霊をかけて歌っているようで、まるでこれが最後のレコーディングになることを予見していたかのよう。作者のブライアン・メイもボーカルのメロディ・ラインが高すぎることを危惧していたようだが、体調が芳しくないフレディが見事に歌い切っており、感動ものだ。

高音のボーカルが続くが、やはりフレディはロック・ボーカリストと思わせる盛り上げ方や迫力がさすがだ。
ブリッジ部の転調するパートは、フレディの優しさや美しさを感じさせる。と思ったらすぐに元の重々しい雰囲気に戻る変幻自在さも健在だ。

だが、鳥肌ものはそこではない。サビで「The show must go on」と歌った後の「Inside my heart is breaking~」の部分をよく覚えておいてほしい。その上でギター・ソロの後のサビでの同じ部分、歌詞は「I'll face it with a grin, I'm never giving in, on with the show」の部分。歌詞も凄いが、やはりボーカルだ。
これがなくても充分ハイトーン・ボーカルなのに、この天にも昇るようなメロディとフレディの歌いっぷりはどうだ。信じられない。何も知らなかった昔に聴いた時も涙が出そうになるほど感動したが、フレディの死という背景を知った今ではもはや涙を止めることは出来ない。

ざっとコード進行を追っておこう。
キーは「Bm」だ。ギターで弾く場合(特にアコースティック)は「Am」にして弾くか、2Fにカポをしてコードのポジションを「Am」にして弾くと開放弦の関係で弾きやすくなる。ここでは「Am」として示すので注意してほしい。バンド形式の1ギタリストの立場なら「Bm」のままで充分だ。

まずイントロのリフ。コード的には「Am」「Am」「F」「F」「Dm」「E」「Dm」「Dm」だ。このうち「Am」の場合は1音が動いて変化をつける。3度の音が2度、4度、3度と変わる。「F」の時も同じ音で、度数でいうと5度、♭5度、6度、5度のようになる。「Dm」の時も7度、6度、「E」の時は「E7sus4」のような形になる。
この曲で驚くのは、ほとんどこの4つのコードだけで出来ている点だ。イントロからサビも最初のメロディも同一。2番目のパートは全体が1音上がるだけで、進行的には同じで、「Bm」「Bm」「G」「G」「Em」「F#」「Em」となるだけ。この際の戻し方は、「Dm」「Am」と繋ぐだけ。また、この転調に入る部分は「Em9」のような音、即ちアルペジオで「ファ# ミ シ ソ」というフレーズが印象的。

唯一、ギター・ソロの後のブリッジ部のみ全然違うパターンになる。重々しい雰囲気を散々聴かされた後だけに、このブリッジ部はハッとするようなパートだ。フレディはとても美しく歌っているが、音をよるのが意外に難しい。コードは「E♭/F」「Dm/Gm」「E♭/F」「Dm/Gm」「Bdim/ConB」「C」となる。そしてすぐに元に戻る。

この曲のブライアンのソロも素晴らしい。短いがハッキリと組み立てが分かる考えられたソロだ。