2006年6月26日月曜日

Hello, Again~昔からある場所~

My Little Lover [ 藤井謙二/小林武史/KATE ]

もう10年も前のヒット曲だが、最近久しぶりに聴いたら「面白い!」と感動してしまった。My Little Loverは「Men & Woman」が好きで、歌はそんなに上手くないなぁという程度の印象しかなかったのだが、この曲は素晴らしい。
転調が楽しそうな感じがしたので早速ピアノをポロポロ弾きながら音を探ってみた。やっぱり面白かった。

まず、キーはEメジャー。最初のパートは普通だ。ざっとコード進行をメモっておくと「E」 「A」 「G#m7」 「C#m7」 「A」 「B」 「C#m」 「BonD#」という感じ。2回目は最後が少し変わる。
次のブリッジ部が面白い。「A」 「AonB」 「G#m7」 「C#m」 「A」 「G#7」 「C#m」 「Bm・A」という感じだが、良いのは2番目の「AonB」ではない。「G#7」のところだ。メロディには出て来ないが、「C音」が出て来る。スケール上に存在しない音で、ここだけハーモニックマイナーの響きになるわけだ。そして、これが美しいと思って繰り返しの2回目も期待して聴いていると2回目は最初の「C#m」の後で「F#m」に行ってしまい「あれー、平凡だー」とガッカリする。ところがその直後の「B7」で大胆な転調になりビックリするという寸法になっている。一番最後に「シラソファ#」と降りて来る部分だ。まったく素晴らしい!イキナリのGメジャースケールということだ。これは次へのつなぎを一足先にやったということなのだろう。

サビのキーはそのままGメジャーだ。「C」 「D」 「G」 「DonF#」 「C」 「D」 「Em」という感じで、「DonF#」にしてもよくあるものだがちょっと綺麗に聴こえる。2回目の繰り返しの「今も胸に響くよ」のところのメロディは美しいが、それはあまり出て来ない高音を伸ばし気味に歌うから余計にそう聴こえるだけだ。
「それは愛が彷徨う影」のところの最初「B7」がブリッジでの「G#7」と同じ使われ方で美しい。そして次に「Em」に行った後の「C#m-5」というのか「ConC#」の部分が良い。
その後更に「C」 「DonC」 「Bm7」 「Em」と来て、イキナリ「F」で転調したようになり「B7」で元のEメジャー・キーに戻る。最後の「見えなかった」の出だしの「見え」の部分は半拍前の小節に入っているので、まだコード「F」鳴っている時に音を出さなければならない。正確に出すのは結構難しい。

最後になってしまったが、歌詞もまた良い。昔の古傷というべきか、大好きだったあの場所をテーマにしている歌はどうしても甘酸っぱい思いにかられる。それでいて「波の彼方に果てが感じられる」「空に進み風を受けて」のようにとてもスケールの大きな印象を与える部分があって良い。人生を振り返ると色々ありすぎて細々した部分よりもっと全体的な大きな観点で考えるからだ。最後の「Hello, Again my old dear place」に思いを馳せる。

2006年4月6日木曜日

Let Me Roll It

Wings [ P.McCartney ]

最近になってようやく『Back In The U.S.』のDVDを買った。2002年の来日公演から早3年半。しかし映像を見るとあの日の興奮が蘇る。中でもこの曲「Let Me Roll It」を気に入ってしまった。
昔からまあまあ好きな曲ではあった。人によってはまったく好きでない人、場合によっては「嫌い」と言う人もいるかもしれない。日本人には評価されにくい曲かもしれない。 もともとブルーズ・ベースの曲で、50年代からライブで鍛え上げたPaulらしい曲だと思う。ブルーズとロックが融合したような曲で、イントロは(サビと同じだが)オルガンの音が印象的なモロ、ブルーズ・タイプの入りだ。私はブルーズの匂いのするロックに目がないため、このイントロだけで最高に良い気分になれるのだ。このイントロを延々と繰り返し、たまにギターソロを乗っけるだけの構成だったとしても充分に満足してしまうだろう。

続いてギターのリフが入る。このリフが「汚い感じ」に聞こえる人は、この曲を好まないだろう。リズムが8分の12なので、リフもよくある4分の4や8分の8拍子とは雰囲気が違う。字余りに感じるかもしれない。このリズムがミソの一つなのだが、この曲の素晴らしさを強調しているのがドラムなのだ。

「ダダーン」とアクセントをつけて入って来る印象的なドラムがある。このライブでのドラマー・Abe(アベじゃないよ。エイブです)のタメが最高なのだ。イントロで良い気分になったら、あとはドラムだけ聴いていれば良い。それだけでこの曲の良さは分かるはずだ。

このライブのドラマー、Abe Laboriel Jr.は最高だ。リズムのアクセントを聴いているだけで最高のノリが感じられて、どの曲も最高峰のグルーヴになる。どんなに手数が多く複雑なリズムパターンになっても最高のノリが全面に出ている。特にこの曲は隙間が多いせいでそれがよく分かるのだ。リズムは機械のように正確に刻むだけでは楽しくないしノリも感じられない。タイミングが遅れる寸前のギリギリまでタメた上でぶっ叩く。リズムはモタるのが一番格好悪く曲をブチ壊しにするのだが、モタる寸前のギリギリまでタメるのが一番格好良いように思う(曲調にもよるが)。そして常に大らかな揺らぎを感じながらリズムを叩き出す。細かなテクニックを要する部分はどうしても表面的な部分に捕われてしまいがちだが、Abeは決して大きなノリを忘れない。きっと体の中にゆったりとしたノリが流れているのだろう。
ドラムに集中して曲を聴いてみるのもオススメだ。

2006年3月1日水曜日

Turandot "Nessun Dorma"

Giacomo Puccini [ Giacomo Puccini ]

この曲を初めて知ったのは、何とロック・ギタリストが使っていたことによる。ドイツ人のUli Jon Rothが『Prologue To The Symphonic Legends』の中の「Brdge To Heaven」という曲がそれ。超高音が出る特注のギター・Sky Guitarで見事なギターを聴かせている。ヴォーカルも見事ながら、大胆でパワフルな部分と繊細で美しい部分をロック・ギターならではで歌い上げていて感動的だ。

トリノ五輪のフィギュア女子の荒川静香選手、本当に美しい演技だったし、この曲はピッタリ。フィギュアであそこまで感動したのは初めてだった。何も金メダルだったから感動したのではない。本当に美しく感動的だったからだ。4回転ジャンプとか高速回転といった大技に注目が集まりがちだが、荒川選手の演技は総合力の勝利。他の選手の時は「テクニック的に凄いなぁ」とか「ジャンプ失敗するなよ」と思いながら見ていたものだが、荒川選手の時は「美しい」と思った。細かなテクニックは素人にはよく分からないが、とても優雅だったし、この曲のイメージにピッタリだった。
大きな感動はこの曲の力によるところも大きいだろう。確か、開会式にも使われていたと思う。イタリア人にとってはかなり重要な曲のようだ。

20世紀初頭のイタリアの作曲家・Pucciniのオペラ曲で、アジアを舞台にしたものだから比較的有名だと思う。紫禁城(中国)のトゥーランドット姫が求婚者に難題を与え次々に死刑にし、男性へ復讐する。しかしタタールの王子・カラフがすべての難題を解き、その情熱で姫の頑なな心を開き、姫は初めての愛を知るというストーリーだ。中国名は『杜蘭朶』だそうだ。

この『Nessun Dorma』というのは「誰も寝てはならぬ」という意で、カラフがすべての謎を解いた後、尚も結婚を拒否する姫に対して、自分の名を当てたら潔く死を選ぶという王子(カラフ)からの謎を解くために、民衆みんなで名を調べろという命令のため「寝てはならぬ」ということになる。
王子の名を知る、召し使いの少女が拷問を受けるが、少女は衛兵の剣を奪い自刃。その少女の王子に対する想いを目の当たりにした姫が心を開く場面だ。

感動的で壮大な曲に、荒川選手のイナバウアー。イナバウアーは大した得点にはならないそうだが、ゆったりと優雅に決める姿がまさにトゥーランドット姫のイメージだ。

ちなみに、この物語のオペラはもう一つあって、有名なピアニストのFerruccio Busoni作のものもある。