2018年10月21日日曜日

Inflation Blues

B.B. King [ B.B.King/A.Alexander/L.Jordan/T.Southern ]

ブルーズの王様・BBキングだ。もはやわざわざ紹介するまでもなく、ミスター・ブルーズといってもいいくらいの存在で、もちろん3大キングの他の2人やもっと古い時代のロバート・ジョンソンやマディ・ウォーターズ、あるいは新しい時代のステーヴィー・レイ・ヴォーン等、偉大なブルーズ・ミュージシャンはいくらでも存在するが、最も影響力のある一人がこのBBだと言っても否定できる人は少ないだろう。この1曲に絞ってもあまり意味がないが、最近聴いたBBの中でも凄さがよくわかる曲かなと思ってセレクトした。

で、BBを語る前にブルーズとは、というのに少しだけ触れる。(それがないと始まらないので)
一口にブルーズといってもあまりにも広すぎて、説明だけで膨大になってしまうので、超端的に言うと、20世紀全般に広まったアフリカ系アメリカ人の音楽の代表だということになる。もともとは黒人霊歌等をルーツに持つ悲しみを表現する音楽だが、その後幅広く広まって、ジャズにもロックにもポップスにもその影響は強く見られるようになっている。

ここでは歴史ではなく、音楽的に見ていきたい。ブルーズを語る上で絶対に避けては通れないものに「ブルーノート・スケール」がある。「ブルーな音(ノート)」とは「悲しみの音」のことだ。基本になっている「ペンタトニック・スケール」に何音か加えると「ブルーノート・スケール」になる。
例えば「Aメジャー・ペンタトニック・スケール」は「ラ シ ド# ミ ファ#」で、「Aマイナー・ペンタトニック・スケール」は「ラ ド レ ミ ソ」だが、最も多く使われるのは「メジャー」の場合は「m3rd」である「ド」、「マイナー」の場合は「♭5th」である「ミ♭」だ。ペンタトニックにこの音を足して「ブルーノート・スケール」とする場合が多いが、基本的にペンタトニック以外の音の微妙な音程操作をすべて「ブルーノート」としても問題ないように思う。特に「m3rd」「♭5th」「m7th」はその代表だが。

で、BBの凄さをここでは2点挙げておきたいと思う。
まず1点目は、微妙な音程だ。「ブルーノート」の3音「m3rd」「♭5th」「m7th」は、正確にその音というのではなく、かなり微妙な音程なのだ。ギターの場合、チョーキングで表現する場合が多いが、その音程を半音の半分、1/4 チョーキングで表現する。
例えば、「メジャー」の場合、「m3th」の音(Aスケールなら「ド」)の音を出しておいてから少しチョーキングをする。少しというのがだいたい 1/4 だ。「メジャー」の中で「m3rd」は「外れた音」だが、それを少し持ち上げる。そうすると、普通のメジャー・スケールの音に近くなるが、少しマイナーの悲しみも感じるということになる。この微妙さが感情表現になるわけだ。
(ピアノではこの微妙な音程が出せないので、トリルにしたり、半音でぶつかる2つの音を同時に鳴らしたりしてソレっぽく聴かせる)
BB(に限らずブルーズ・ミュージシャンは皆そうだが)の出す1音1音に音程による微妙な表現がつまっている。微妙に音程を変化させるにしても、最後の締めの音で使って、終わったなと思わせ、消え入る時に音程を上げたりもするので、音が聴こえなくなるギリギリまで聴かなくてはならない。1音をとても大事にするのがブルーズだ。「早弾きによる100万音よりBBの出す1音の方が凄い」と言われるのはこのあたりのことだ。

第2点目。「間」だ。音楽的に言えば「休符」だ。「音を弾かないだけなのにテクニックも何もないだろう」と思われるかもしれないが、そうではない。「弾かない」ことは「弾く」ことよりも難しい。特に腕に自信があればあるほど「どうだーーー、凄いだろーーー!」となってしまいがち。そういう最悪のブルーズ・セッションを何度も目撃したし、かく言う私自身もそういう一人だったと思う。ギターでは特に間をとることがおろそかになりがちだ。サックスやトランペットのような楽器は息継ぎが必要なので、嫌でも間を取らざるを得ないが、ギターではずっと弾き続けることが出来るからだ。
BBは歌も歌うので、そういう間を心得ているのかもしれない。この絶妙の間が取れるからこそ世界トップクラスのギタリストなのだ。逆にいえば、それ以外のギタリストは間がうまく取れないからBBには敵わない。それくらい「間」は難しいテクニックなのだ。
試しに、デタラメに適当に隙間を多めに開けてソロを弾いてみたことがある。弾いている時はその気になっていたが、自宅に帰り録音を聴いてみると退屈で仕方がない。やはり感情の高まりによる表現や他のドラムやベース等との呼吸など、色々意味があるのだ。
つまり、鳴らした音の1音1音はもちろん、鳴ってすらいない空間までがブルーズだといえる。こうなるともの凄い話しでついていけない領域だ。ほとんど宗教の領域のようだ。

ブルーズにはお決まりのコード進行のパターンがあって、この曲も例外に漏れず。12小節1パターンで、「I」「IV」「I」「I」「IV」「IV」「I」「I」「V」「V」「I」「V」の繰り返し。「I」が「A」なら「IV」は「D」、「V」は「E」となる(各コードに7thをつけるとよりソレっぽくなる)。
この決まりきったパターンの中で、休符も含めた無限の音表現をしているのだ。

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